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第四話 源氏の君に恋して
『…何を泣くのです?』
彼女はこの上なく優しく、問いかける。
(…あの、感激して…。その、あの!
単なるアマチュアの物書き気取りな私が、
紫式部様と「源氏物語」を自由に解釈して、
今後も自由に描かせて頂いても宜しいのですか?)
涙も拭くのも忘れ、私は答える。
…風は私を包み込むようにして、優しく掠めていく。
まるで私を抱きしめるかのように…
『勿論ですよ!もし仮に、私が駄目、と言っても…。
あなたは描かずにはいられないでしょう?』
ウフフフ…と彼女は声を上げて笑った。
…図星だ…
私は思わず赤面する。
(有難うございます!!!描かせて頂きたい事。沢山ございます!
自由に、描かせて頂きます。紫式部様と源氏物語に敬意を表しなら!)
私は立ち上がり、姿勢を正すと宣言するように誓った。
『どうぞ!…但し!!一つだけ条件があります!』
彼女はにわかに、やや厳しい声を上げる。
…一気に緊張感が高まる…
(はい!なんなりと)
私は答え、頭を下げた。
『それは、いついかなる時も、あなた自身が楽しんで描く事!』
茶目っ気たっぷりに彼女は言った。
一瞬、いささか拍子抜けしてしまったが、
その言葉の重さにすぐに気づく。
「源氏物語」あの大作を書き上げるのは、勿論楽しさも沢山あったろうが、
筆舌に尽くしがたい苦悩があったのだ…。
…無名な私だからこそ、自由に描ける楽しさを、
その素晴らしさを味わいなさい…
なんと有り難く、そしてなんと重みのある言葉であろう。
この一言で、
「どうせ自分なんて…」
人気のある方々のアクセス数やマーク、ファンや
レビュー数の違いに打ちのめされる日々。
覚悟はしていたのが、
0の数が二つ三つも違うのだ。
また、賞を取ったり書籍化したりして成功していく仲間達を見ての焦り。
「書いても意味等ないのではないか?才能の欠片も無い私の作品など、
ほとんど、誰の目にも触れないのだし…」
と、
心のどこかで卑屈になり、劣等感で一杯だった自分への
『こたえ』が見い出せたのだ。
私には、作品を通して伝えて行きたい事がある。
ただ、読み手の受け取り方は自由なので、
伝わるか伝わらないかはまた別の話であるが。
書く事が大好きである。
マニアックであるが故に、一般受けはしにくい。
運と才能は欲しいが、無いものねだりしても仕方無いので
死に物狂いの努力で補い続けるしかない。
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