第一話 地下鉄に乗って

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第一話 地下鉄に乗って

地下鉄に乗って、 紫式部のお墓参りに行ってみよう。 そう思い立った私は、 新幹線を乗り継ぎ、ある地下鉄に乗っている。 平日のせいか人はまばらだ。 地下鉄に乗る時は毎回感じるのだが、 空想の翼を広げるにはちょうど良い。 物思いに耽るのにもおあつらえ向きである。 地下を走るせいか、車外の仄暗さ。 そして閉鎖された空間が、 誰しもが持つイマジネーションの泉の 扉を開きやすくするのだろう。 紫式部。稀代の小説家。 彼女は時代を超越した天才だと思う。 彼女に関心を持ち始めたのは、 高校の時習った『源氏物語』がきっかけだ。 意味は解らなくとも、 冒頭からの得も言われぬ美しい表現に、 登場人物の美貌を大いに期待したものだ。 しかし、 『源氏物語絵巻』をコピーした物を 同時に配布され、物語を学ぶ前に 早くも気持ちが萎えてしまった。 …平安時代の美的感覚の相違に… あまりにショックだった。 「光源氏の女性遍歴は、 この世の全ての男達のロマンだ! 特に、幼女を自分好みの女性に育て上げる。 これは男が持つ願望の原点だ!」 更に、 古典教師の光源氏への熱き想いが 益々源氏物語を敬遠していく要因となる。 まぁ、この教師の発言は、 本人にそのつもりは無くとも、 今ならすぐに学校問題へと発展しそうであるが。 (なんだ、光源氏って重度のマザコンで ロリコンで酷い女タラシなのか) そう感じて、 テストや受験で必要な部分のみを 機械的に勉強するだけとなった。 正直、源氏物語は苦手だった。 けれども、どこかで気になっていた。 今振り返ってみて、思う。 苦手、されど気になる…。 深みにハマりたく無いが為に、 自分を律していただけなのかもしれない。 まるで、 源氏物語に登場する『朝顔の君』のように…。 いつの日か、 紫式部が何故光源氏を生み出したのか? 最も理想とする女性を『紫の上』 にしたのは何故なのか? 源氏の君は幸せだったのか? 彼女に尊敬と憧れを込めて問いかけてみたい! そんな想いが、胸に燻り続けた。 2017年4月初め。 漸くその想いの封印を解いた。 それが、 据摘花異聞「とこしえの華、たまゆらの風」 ~唐紅の花~である。 書き始めると、 紫式部に聞いてみたい気持ちは止め処なく溢れ、 Neo源氏物語異聞シリーズとなっていく。 書かせて頂くにあたり、 『源氏物語』をもう一度一から勉強し直しだ。
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