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では、何に不安なのか。もちろん、それは──
「──あの、その魔物ってどんな奴なの?」
対戦相手のちょっとした魔物。やはり、どうしてもその言い方が気になる。
私の質問に、同じ笑顔で答えるクライシュ。
「コウちゃんも知ってる魔物っす!!なんせ、初心者の壁とも言われている魔物っすから!」
「・・・・・初心者の壁?」
名前は? と試しに聞いてみると、意外にもあっさりとその答えは出された。
「ゴブリンっす」
ふむ、と私は小さい腕を組む。名前を聞いてすぐに、その姿は思い出された。
───・・・・・確かに有名な魔物だな。
緑色の肌、逞しい筋肉に巨大な犬歯。武器は棍棒を使う。
子を作るために他種族のメスを襲うので、あるネタにされる事もしばしば。
因みに一般的なゴブリンの知能は低く、人型だが言語はない。単体では弱く、群れで生活している。
──以上が私の中でのゴブリンの知識だ。
スライムに並んでポピュラーな魔物、という位置づけで、初心者が戦っているイメージがある。
〝初心者の壁〟と言っても、あながち間違いではなさそうだ。
小型のドラゴンかもしれない、と構えていた身体の力が一気に抜け、安心感が溢れ出る。
本当にちょっとした魔物だった。自分の力を過信している訳では無いが、苦戦はしないだろう。
自分で自身の実力を測る───この点では、アルマダと軽く戦ってみてよかったのかもしれない。
私は顔を綻ばせる。──やっと安心が出来る。
「わぁ、知っている魔物だ!もしかして、それだけでおしまい?」
───もちろん、これだけならばな。
微かな希望を求めてクライシュを見ると、
「いやいや、そんな訳ないっす」
そして、その後に他の魔物も試す予定っすよ、と鬼畜過ぎるお言葉。
「小手調べってことで、まずは1体だけっすね。ま、気楽に構えてていいっすよ!」
───そんな貴方の輝く笑顔が今は憎いです。
・・・・・どうしよう、全くもって気楽に構えないのだが。
それにもう『予定』って言っちゃってるし。
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