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ふむ、と考え込んでいると、クライシュが説明してくれた。
「この模擬闘技場は、王宮召喚師の所有する魔物との訓練の為の施設っす。危なくなったら召喚師が何とかしてくれるので、安全に実践訓練が出来るんすよ」
ま、多少の怪我は仕方がないんすけど──苦笑いで言うクライシュ。
なるほど、と私は視線を落とす。
戦闘を行える魔物は限られるものの、比較的安全に実践を行えるのは大きい。
───それに、こうして娯楽として楽しめているのはいい事だ。
「くっそぉおおお!!!」
突然、叫び声が聞こえた。と、同時に下方から風。
どうしたどうした、と見下ろす。──その光景に息を呑んだ。
飛び上がり、突き刺そうとする男性の剣を力づくで逸らし、血走った眼光で唸る魔物。
毛深い足に力を込めると、地を抉るようにその足を動かす。
──ゼロ距離からの突進だ。恐らく回避は不可能。
観念したように男性が構えを解くと、歓声に割り込むように強い声が響き渡った。
声を発したのは観戦席にいた青年である。
「そこまで!!」
男性に向けられる巨大な牙──それが届く前に、音もなく魔物は消えた。
後に残ったのは、砂ぼこりが舞う地の上に腰を抜かした騎士団員1人。
観戦席から笑い声と共に野次が飛ぶ。
「まぁた、負けたのかよ──だっせえな!!」
「たかがファンドドス一頭だけに、何手こずってるんだよ!」
軽い調子で言われた言葉に、同じように笑顔を見せながら男性は返す。
「うっせー!!次こそ勝ってやるからな!!」
その表情は達成感に満ちていた。足を引きずりながらも、奥の通路へと消えてゆく。
その姿が完全に見えなくなると、楽しそうに見ていたクライシュが小声で話しだした。
「あの魔物──ファンドトスって言うんすけど。単体ランクはA、ソロだとなかなかの強敵っすよ」
へぇ、と言いつつ私は腕を組む。
クライシュが戦闘の特徴云々を話し始めるが、それを無視した。
───・・・・・聞いたことがない名前だな。
ゴブリンやスライムのように、ポピュラーな魔物ではないのかもしれない。
──この世界特有の魔物、という可能性もある。
「・・・・・その点私は安心かな、ゴブリンだし」
ほっと安心していると、再びあの青年が声を張り上げた。
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