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「えー次の相手は──といきたい所です・・・・・が!! ここで、スペシャルゲストをご紹介したいと思います」
そう言うと眼鏡をくいっと上げる青年。その奥の視線は、しっかりとこちらを見ていた。
ぎょっとした私は無意識に後ずさる。
・・・・・嫌な予感がする。
「──コーウーちゃん」
聞き覚えのある楽しそうな声──と、次の瞬間、ガシッとその腕を誰かが掴んだ。
きりきりと腕の骨が軋むような音が聞こえた気がする。
「逃げちゃダメっすよ?」
腰を屈めて、クライシュは優しく微笑む。──が、今の私にとってそれは、悪魔の微笑みにしか見えない。
「・・・・・いやいや、だって〝スペシャルゲスト〟ってなに。聞いてないって」
そう影でこっそり文句を言っても、「だって言ってないっすもん」とさらりと返される。
・・・・・それはずるい、それはずるいぞ。こんな大々的に紹介して何がしたいというのか。
いい所って、やっぱり嘘だったのか。
まるで見世物じゃないか卑怯者──そう言いたいのをぐっと堪えた。
代わりに目線でそれを訴える・・・・・が、意味は無いらしい。ニコニコと機嫌が良さげなクライシュに、頭を撫でられた。
「来ちゃったもんは仕方ないっすよ。ね?」
そして、私の手を軽く引くクライシュ。
・・・・・不服だが、クライシュの言う通りだろう。
「・・・・・子供扱いするな」
精一杯の強がりで渋々前へと出ると、バッと全員の視線が突き刺さる。
四方八方から観察されるような目つき──それだけで精神が疲弊した。
───ショーの時もそうだったが、注目されるというのはあまり得意ではないというのに。
重い表情の私とは対照的に、眼鏡の青年は明るい顔で高々と片手を上げる。
「えー皆様もご存知かとは思いますが、クライシュさんが来てくれましたー・・・・・拍手!!」
「「うぉおおおお!!」」
拍手ではなく野太い雄叫び。クライシュは手を振ることで、それに応じる。
──取り敢えずこのやり取りで、クライシュが人気だということだけはわかった。
・・・・・心の底からどうでもいい。
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