14.実力測定という名の

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その時、思わぬ助け舟が入る──それは、ここへ連れてきた張本人(・・・)だった。 「──まあまあ、これはウェルさんが直接決めたことっすから・・・・・文句は無しっすよ?」 ね、と騎士団員に向けて笑いかけるクライシュの言葉は柔らかいが、有無を言わせない何かがあった。 ぐっと騎士団員達の会話が詰まる。睨みつけていた者も、今は決まりが悪そうに目を逸らしていた。 〝ウェルさんが直接(・・)決めた〟 そのたった一言で、全員黙ってしまったのである。 何故かその事に感心した。──これが権力なのか、と。 ───・・・・・何とまあ、効果的な・・・・・ 不意にクライシュが振り返る。満面の笑みが、計算通りだと語っていそうに見えた。 「さ、下に降りるっすよ。暫くしたら相手が奥から出てくるので、存分に力を発揮して欲しいっす」 その表情を見るに、私は見事に一杯食わされたのだろう。 もうこの際なので、黙ってクライシュの指示に従う。 ・・・・・一段一段、態とらしくゆっくりと階段を降りていくのは、せめてもの抵抗だ。 ──そういえば、あの眼鏡の青年の姿は見当たらない。 どこへ行ったのかは知る由もないが、状況が状況の為気になってしまう。 「ね、あの眼鏡の青年は?」 「あー、ノノの事っすか」と、手すりにもたれ掛かったクライシュが見下ろす。 あの青年は、ノノという名前らしい。 「んー見当たらないっすねぇ・・・・・多分、魔物の召喚とかじゃないっすかね」 ほら主催者っすから、と続ける。その言葉にやはりと思うと同時に、若干の驚きも混じった。 召喚師というと、白髪白髭のおじいちゃんのイメージが私の中ではあったのだ。 というか、基本的に魔法使いのイメージがソレである。 ──・・・・・意外にも若いものだな。王宮専属となると、もっと歳がいっているのかとてっきり・・・ 「・・・・・先入観は宜しくないな」 よく良く考えれば失礼な話だ。 さて、と一息ついてフィールドの中心に立った私。本格的な戦闘を前にして、段々と嫌な汗が出てきた。 死ぬ事はないとはいえ、多少の怪我はあるのだから緊張しない方がおかしい。 所詮はゴブリン、然れどゴブリン──相手が例えゴブリンでも、油断は禁物だ。 ───ああ、そろそろか。
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