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その時、思わぬ助け舟が入る──それは、ここへ連れてきた張本人だった。
「──まあまあ、これはウェルさんが直接決めたことっすから・・・・・文句は無しっすよ?」
ね、と騎士団員に向けて笑いかけるクライシュの言葉は柔らかいが、有無を言わせない何かがあった。
ぐっと騎士団員達の会話が詰まる。睨みつけていた者も、今は決まりが悪そうに目を逸らしていた。
〝ウェルさんが直接決めた〟
そのたった一言で、全員黙ってしまったのである。
何故かその事に感心した。──これが権力なのか、と。
───・・・・・何とまあ、効果的な・・・・・
不意にクライシュが振り返る。満面の笑みが、計算通りだと語っていそうに見えた。
「さ、下に降りるっすよ。暫くしたら相手が奥から出てくるので、存分に力を発揮して欲しいっす」
その表情を見るに、私は見事に一杯食わされたのだろう。
もうこの際なので、黙ってクライシュの指示に従う。
・・・・・一段一段、態とらしくゆっくりと階段を降りていくのは、せめてもの抵抗だ。
──そういえば、あの眼鏡の青年の姿は見当たらない。
どこへ行ったのかは知る由もないが、状況が状況の為気になってしまう。
「ね、あの眼鏡の青年は?」
「あー、ノノの事っすか」と、手すりにもたれ掛かったクライシュが見下ろす。
あの青年は、ノノという名前らしい。
「んー見当たらないっすねぇ・・・・・多分、魔物の召喚とかじゃないっすかね」
ほら主催者っすから、と続ける。その言葉にやはりと思うと同時に、若干の驚きも混じった。
召喚師というと、白髪白髭のおじいちゃんのイメージが私の中ではあったのだ。
というか、基本的に魔法使いのイメージがソレである。
──・・・・・意外にも若いものだな。王宮専属となると、もっと歳がいっているのかとてっきり・・・
「・・・・・先入観は宜しくないな」
よく良く考えれば失礼な話だ。
さて、と一息ついてフィールドの中心に立った私。本格的な戦闘を前にして、段々と嫌な汗が出てきた。
死ぬ事はないとはいえ、多少の怪我はあるのだから緊張しない方がおかしい。
所詮はゴブリン、然れどゴブリン──相手が例えゴブリンでも、油断は禁物だ。
───ああ、そろそろか。
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