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眼前には吸い込まれそうな闇。
あそこから魔物が出てくると思うと、ソレが地獄への入り口にさえ見えてくる。
───まず、初戦であるゴブリン戦はサックリと終わらせよう。準備体操をするように、避けながら隙を見て攻撃すればいい。
身体の余計な力を抜き、自然体で立つ。覚悟を決めて前を見据えると、何処からか青年の声がした。
姿は、ない。
『さあさあ、皆さんお待ちかね!!お次は、今日の目玉である魔物でーす!』
青年の台詞に引っかかった。
嫌な予感が再び湧き上がり、逃げ出しそうになりながらも、じっとその場で待機する。
しかし、私の心臓は忙しなく鼓動を響かせていた。
───目玉となる魔物が・・・・・ゴブリン?
当たり前だが、たかがゴブリンが目玉になるわけが無い。では、何故青年はそう言ったのか。
それは、突然目の前に現れたモノによって納得した。
「楽しみですねー」と能天気な青年の声──場違いなそれすらも、聞こえなくなるほどの戦慄。
──誰も声を発しない。否、発せない。
戦闘なんて日常茶飯事、模擬闘技場でも戦い慣れしている筈の騎士団員でさえ、その圧倒的なオーラに息を呑む。
──最早、笑いながら楽しんでいた面影は全くない。
不自然に静まり返った空間に、聞こえてくるのは荒い息遣いのみ。
対峙する私には、そこで渦巻く大量の魔素が感じられていた。
───そこに、いる。
自身のつま先から目が離せない。見たくない、向き合いたくないと目を逸らす。
『オオォォオオオオン!!』
途端に響き渡る叫び声。ビリビリと空気が震え、あちらこちらから軋むような音が聞こえてくる。
思わず顔を上げてしまった──
「・・・・・・・・」
予想通り、ソレはゴブリンなんて可愛いものじゃない。───そんな生易しいものじゃない。
身長はゆうに10mを越している。
辛うじて人型をしているが、ゴブリンというよりも鬼に近い見た目だ。
棍棒代わりに持つのは、1本の巨大な斧。刃に付着している血は、既に赤黒く変色していた。
そして、ゴブリン特有の緑色の肌・・・・・ではなく発達した筋肉が盛り上がっているのは赤黒い肌。
浮き出ている血管が、更に魔物の迫力を増している。
グロテスクとも取れる姿は、この場にいる全員に衝撃を走らせた。
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