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──戦闘開始の合図は、化け物の鳴き声だった。
「・・・・・ヤバくないか、あれ」
誰かの呟きを皮切りに、引き攣ったざわめきが広がる。1人の恐怖が瞬く間に伝染し、やがては全体へ。
見慣れたはずの魔物──だった。
だからこそ軽口が叩けていたし、突然ここに来た幼女に対しても、場違いだと目くじらを立てていた。
だが、今はどうだ。
「冗談、だろ・・・・・」
「何止まってるんだよ!! 逃げろよぉ!!」
その幼女は臆することなく、細い足でしっかりと地に立っているではないか。
助けなきゃ、との声が周りから上がるも、魔物の迫力で押さえ込められる。
加勢したいが出来ない──それはこれを見ている全員に共通するものだった──
「──こんなところかな、観客席の様子は」
直接見なくとも、観戦席の様子は薄々感じていた。
だから、助けに入ってくれない事に対して、別に文句を言う気は無い──今は。
そう、今は別の問題が発生し、手一杯の状態なのである。
───やばい。これはやばい。
脳内で警報がなる。じんわりと握った手に汗が滲んだ。
「・・・・・くそっ」
私は魔素変換を行おうとした手を止める。今しがた気づいた事実に、動揺で鼓動が早くなっていた。
〝空気中の魔素濃度が低い〟
──道理でやけに視界が良く見えたものだ。
・・・・・元の視界と殆ど同じように。
地下の白い霧は薄いのだ。
薄いままではエネルギーが弱く、まともに役に立ちはしない。
だからといって、魔素を掻き集めるのには多少なりとも時間がかかるし、集中力も必要となる。
──リアルタイムの戦闘では悪手だ。
私は心の中で悪態をつく。
───だから気づかなかった、気づけなかった!!
ああもう・・・・・これじゃあ、どう見ても不利じゃないか。
しかし、それは自身の魔素を使わなければ、の話だが。
「──〝黒い魔素〟を使わなければ・・・・・不利」
その言葉を噛み締めるように反芻する。
黒い魔素──ほんの少しで爆発的なエネルギーを持つ力。
だから、私はまだ扱えない。力に持っていかれてしまう。
その間に振り下ろされた斧を避け、魔物と同じ目線にまで大きく跳躍する。
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