15.戦闘

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────────────────── ──戦闘開始の合図は、化け物の鳴き声だった。 「・・・・・ヤバくないか、あれ」 誰かの呟きを皮切りに、引き攣ったざわめきが広がる。1人の恐怖が瞬く間に伝染し、やがては全体へ。 見慣れたはずの魔物──だった。 だからこそ軽口が叩けていたし、突然ここに来た幼女に対しても、場違いだと目くじらを立てていた。 だが、今はどうだ。 「冗談、だろ・・・・・」 「何止まってるんだよ!! 逃げろよぉ!!」 その幼女は臆することなく、細い足でしっかりと地に立っているではないか。 助けなきゃ、との声が周りから上がるも、魔物の迫力で押さえ込められる。 加勢したいが出来ない──それはこれを見ている全員に共通するものだった── 「──こんなところかな、観客席(あっち)の様子は」 直接見なくとも、観戦席の様子は薄々感じていた。 だから、助けに入ってくれない事に対して、別に文句を言う気は無い──今は(・・)。 そう、今は別の問題が発生し、手一杯の状態なのである。 ───やばい。これはやばい。 脳内で警報がなる。じんわりと握った手に汗が滲んだ。 「・・・・・くそっ」 私は魔素変換を行おうとした手を止める。今しがた気づいた事実に、動揺で鼓動が早くなっていた。 〝空気中の魔素濃度が低い〟 ──道理でやけに視界が良く見えたものだ。 ・・・・・元の(・・)視界と殆ど同じように。 地下(ここ)の白い霧は薄いのだ。 薄いままではエネルギーが弱く、まともに役に立ちはしない。 だからといって、魔素を掻き集めるのには多少なりとも時間がかかるし、集中力も必要となる。 ──リアルタイムの戦闘では悪手だ。 私は心の中で悪態をつく。 ───だから気づかなかった、気づけなかった!! ああもう・・・・・これじゃあ、どう見ても不利じゃないか。 しかし、それは自身の魔素を使わなければ、の話だが。 「──〝黒い魔素〟を使わなければ・・・・・不利」 その言葉を噛み締めるように反芻する。 黒い魔素──ほんの少しで爆発的なエネルギーを持つ力。 だから、私はまだ扱えない。力に持っていか(・・・・・・・)れてしまう(・・・・・)。 その間に振り下ろされた斧を避け、魔物と同じ目線にまで大きく跳躍する。
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