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観客から、初めて罵声以外の声が上がった。続く困惑した囁き声は、こちらを心配するものへと変わっている。
喜ばしいことに、非難するような声はもう聞こえてこなかった。
──が、ほっとする時間もないようだ。
下を見ると、大きく抉れた地面。無意識に身震いした。
「・・・・・うっわ」
それを見れば誰でも、当たった瞬間あの世行きだ、という事くらいはわかるだろう。
眼下からは、既に魔物が巨大な手を伸ばしてきている。咄嗟に私は叫んだ。
「《固定》──っ!!」
だが、魔物の手の前に固めた薄い膜は、音もなくあっさりと破られる。
やはり、その場の魔素だけでは強度が弱いようだ。
「・・・・・ちっ」
短い舌打ち。
固定した魔素の床に、片手を付き身体を反転。そこから飛び退くことで、魔物から更に離れる。
『グォォオオァアアア!!』
醜く歪んだ顔を更に歪ませ、魔物が怒り狂った叫び声をあげた。自分よりも小さな存在なのに、捕まえることが出来ないというもどかしさ。
なんとか獲物を仕留めようと、めちゃくちゃに腕を振り回す。
──その巨体に見合わず、そのスピードはアルマダの剣よりも速い。
「──っと」
考えるよりも先に、身体が動いた。《固定》された空中で、体勢を立て直して間一髪。
──その真下を赤黒い腕が、線として通り過ぎてゆく。
再度あがる観客の驚きの声を聞きながら、私は自分でも驚いていた。
・・・・・以前では考えられないような、人間離れした動き。アルマダとの戦闘時よりも、そのキレが増したような気もする。
───気の所為、だろうけど。
どこか引っかかる異変に足を止めると、すぐさま次の攻撃が来る。
地を蹴ってそれを避けるが、そこには既に大きな影。
「いつの間に・・・・・っ」
あんな巨体に何故、ここまでのスピードが出せるのか、甚だ疑問である。
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