16.出会い

3/21
前へ
/387ページ
次へ
────────────────── 完全に意識を失った事を確認し、〝彼〟は起こさないように、そっと彼女から離れる。 頬に触れていた手を名残惜しそうに戻すと、彼は立ち上がった。そして周りの炎の海を見て、思案する事約1秒。 不意に、彼の足元から〝黒〟が広がった。それは闘技場全体を染め上げる。 無論、誰もいないこの場で、それに気づく者などいる訳がなかった。 勢いの止まない熱風に揺れる黒髪。血で染めたような紅い瞳が、その隙間からちらつく。 薄い唇が開いた。 「───《食え》」 たった一言──発した言葉はそれだけだった。 しかし、次の瞬間───光が消える。 嘘のように静まり返る闘技場。残されたものは、見るも無残な傷跡のみ。 あれだけ猛威を振るっていた業火は、瞬きをする間に消え失せていた。 ──否、〝黒〟によって呑み込まれていた。 煤まみれのフィールド内で彼は微笑む。それは横たわる少女に向けられたものだった。 身を屈め、割れ物を扱うかのように彼女に触れる。 「やっと、見つけた。僕の──」
/387ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5934人が本棚に入れています
本棚に追加