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──まだ気配は動いていないようだ。
それを確認し、本棚の裏から回り込むように近づく。
足音を立てないようこっそりと距離を縮め、あっという間に残り数メートル。
隔たりが本棚一つとなった所で、小さく一息ついた。
──なんでコソコソとしているのか、と問われればそれまでなのだが・・・・・。
───・・・・・まあ、何となく?
耳をすませば、微かに紙の擦れる音が聞こえる。
それで確信した──この裏にいると。
一歩一歩慎重に踏み出し、影からそーっと覗くと、艶やかな銀髪がサラリと見えた。
「・・・・・・・・」
そこに座っていたのは10歳程の少年。
・・・・・ひと目でウェルバートの子供だとわかった。
───異世界って何でこう・・・・・顔立ちが整っている奴ばかり何だろうな。
いやはや羨ましい限りだ。
ビスクドールのような精巧な美しさ、しかしそこには鋭利な刃のような冷たさがある。
本に落とされた蒼い瞳には、長い睫毛が縁られていた。
良くも悪くも、所々がウェルバートに似ている。
───・・・・・さすが遺伝。
妙なところで感心しながら、美少女のようなその横顔を無遠慮に眺め回す。
自分でも失礼だとは思うが、美しいものはついつい魅入ってしまうのだから仕方ない。
じっと見つめていた私は、気づかなかった──思わず自身が身を乗り出していた事に。
───そして既にバレていた事に。
静かな空間に突如響きわたったのは、声変わりのしていない少年の声。
「──そこで見ている奴、いい加減に出てこい」
「ひゃあ!?」
警戒した声音に、トスン、と驚いて尻餅をついた身体。衝撃によって、曖昧にしていた境界も元に戻る。
何故バレたし──私は、慌てて変な声を出した口を押さえた。
心臓がバグバクと煩い。きっと今、私の顔は赤面していることだろう。
そんなことはお構い無しに、美少年はつかつかと近づいてくる。高い背が照明を遮り、私の顔に影を落とした。
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