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──唐突に声をかけられた。
「ね、コウちゃん」
手招きに応じて近づくと、ルーシュは耳元へと口を持っていった。そしてベルセルトに聞こえないよう、小声で囁く。
「───僕たちにあんまり馴れ馴れしくしないでね? 媚び売っても無駄だから」
「・・・・・ぇ」
僅かに声を低くして囁かれたソレに、背中が粟立つのを感じた。絶対に10歳そこらの子供が出せるものでは無い。
改めて確信する──ウェルバートの子なのだと。
じゃあね、とルーシュがベルセルトの背を無理矢理押す形で、立ち去った後も私は呆然と立っていた。
・・・・・人は見かけで判断しちゃいけないな。
それに───こんな子供に、言われっぱなしの私ではない。
小さくなる背中に向けて、口に手を添えた私は精一杯の大きな声で言い返す。
「──媚びるってなぁに? まだ子供だから難しい言葉はわかんないや」
〝子供〟という言葉を強調して放った言葉。
振り向いた2つの驚愕した顔に、思いっきり満面の笑顔を見せた。
それに、と言葉を続ける。
「私・・・・・ビッチ、じゃないよ?」
初めてルーシュに反応があった。ビクッと肩が跳ねる。わかってんじゃん、と吐き捨てるように言って笑みを消した。
何か言い返そうとしているが、何も言葉が浮かんでこない御様子。
そんなルーシュの悔しそうな様子に、私はにやけるのが止まらない。
───まだまだ子供だなぁ・・・・・ああ、スッキリした。
「またね!! ルー君、ベル君」
ああ、とベルセルトは手を振り返してくれたが、対するルーシュは無反応。
それでもルーシュと目を合わせ、バイバイと手を振る。すると、ふいっと顔をそらされてしまった。
段々と小さくなる背中。それを満足して私は見送る。
───媚びる気は全くない・・・・・が、仲良くする事でのデメリットは一つもない。
それに、私には〝無邪気〟という武器があるのだから怖いものは無い。
・・・・・しかも、相手はまだ子供だ。
兎にも角にも、ルーシュが〝天使の皮を被った悪魔〟だと分かっただけでも収穫か。
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