5933人が本棚に入れています
本棚に追加
「・・・・・んー、無かったなぁ・・・・・」
膝に置いた本を、呟きと共にパタンと閉じる。見つからなかった、というだけで更に疲労感が増した。
ベルセルトが持ってきてくれた本を全て読み終えたが、書いてあるのは全てタダの魔族の事──角に模様なんかない。
──何処にも〝私〟の事など、書いていなかった。
心を占めるのは単なる虚無感。・・・・・私は一体何なのか。
「ここにはないのかもねぇ・・・・・」
ここに無いとしたら、もう思いつく当てはない。もう一度探してみるか、と重い腰を上げた。
まずはこの本を片付けないと。
腕の中の大量の本を見下ろし、やれやれと息を吐く。ベルセルトが探してくれたのは嬉しかったが、結局無駄になってしまった。
あんな苦労してまで持ってきてもらったのを思うと、少し申し訳ない。
「──あ、あそこかな」
ぶらぶらと見回していたら、天井近くの本の列に複数の空きを発見。恐らく、あそこをごっそり抜き取ったものだと思うが──・・・・・
───・・・・・兄の方も凄い奴なんだな、やっぱり。
弟君と同じく、魔力操作のアレで取ったものだろう。ウェルバートの血を引いているだけの事はある。
・・・・・まあ、そんな天才ではない私の場合、《固定》して作った階段を地道に登っていく事になるけども。
ピタと立ち止まり、宙に漂う魔素に向けてたった一言。
「──《固定》」
その言葉だけで、脳内のイメージ通りに固定される魔素。
そしてその階段をトントンと上がる。──もう魔素操作にも慣れたものだ。
・・・・・が、やはり自由度は劣る。ベルセルトやルーシュが使った魔力操作は出来ない。
──空中で物を支えられても、地から浮かすことは出来ないのである。
・・・・・体内の魔素とは違って、本当に不便だ。
最初のコメントを投稿しよう!