5933人が本棚に入れています
本棚に追加
踞りながら、「今まで誰にもバレてないんすけどね・・・・・」と落ち込むクライシュ。
その丸くなった背中を、ぽんと伸ばした手で軽く叩く。
「まーまー、それは私だからってことで」
「・・・・・、それで納得しちゃう自分が怖いっす・・・・・」
ゆっくりとクライシュが立ち上がった。自然な動きで私の手を掴み、廊下へと出る。
ようやく昼食にありつけるらしい。
手を引かれながらも、並行する為に駆け足になる。クライシュの手をぎゅっと握り返して、前を向く顔を見上げた。
「──ね、・・・・・もう、行くの?」
行くの?──とは、本当に昨日今日で兵舎へ行くのかという意味である。
流石に間を開けた方がいいのでは、と暗に訴えかけていたのだが──・・・・・
「へっ? まだ読み足りないんすか?」
「違う、そうじゃない」
見当違いの言葉でキョトンと見下ろす顔に、つい素が漏れた。うーむ、とこめかみを押さえる。
───・・・・・、クライシュには通じないのか。
頭上にクエスチョンマークを浮かべるクライシュと、引きつった笑いを顔面に貼り付けている私。
・・・・・まさか、意図を汲み取って貰えないとは。
否定した手前、収拾がつかないこの状況。
無言の時間が流れ、廊下に響く足音だけが聞こえる中──結局最初に口を開いたのは私の方だった。
「・・・・・うん、行こう」
その返答にクライシュは、眩しい笑顔を見せる。はい、と腕を引かれて再び歩き出す。
無言となった間で、「それに」とボソリと呟きが聞こえてきた。
「──早めに溝は埋めた方がいいっすよね?」
ハッと横を見ると、こちらをニッコリと見つめるクライシュ。目の前に聳える扉を前に、そうだね、と私は微笑んだ。
そして、独り言のように言う。
「───・・・・・確かに早めがいいよね」
最初のコメントを投稿しよう!