17.溝

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踞りながら、「今まで誰にもバレてないんすけどね・・・・・」と落ち込むクライシュ。 その丸くなった背中を、ぽんと伸ばした手で軽く叩く。 「まーまー、それは私だからってことで」 「・・・・・、それで納得しちゃう自分が怖いっす・・・・・」 ゆっくりとクライシュが立ち上がった。自然な動きで私の手を掴み、廊下へと出る。 ようやく昼食にありつけるらしい。 手を引かれながらも、並行する為に駆け足になる。クライシュの手をぎゅっと握り返して、前を向く顔を見上げた。 「──ね、・・・・・もう、行くの?」 行くの?──とは、本当に昨日今日で兵舎へ行くのかという意味である。 流石に間を開けた方がいいのでは、と暗に訴えかけていたのだが──・・・・・ 「へっ? まだ読み足りないんすか?」 「違う、そうじゃない」 見当違いの言葉でキョトンと見下ろす顔に、つい素が漏れた。うーむ、とこめかみを押さえる。 ───・・・・・、クライシュには通じないのか。 頭上にクエスチョンマークを浮かべるクライシュと、引きつった笑いを顔面に貼り付けている私。 ・・・・・まさか、意図を汲み取って貰えないとは。 否定した手前、収拾がつかないこの状況。 無言の時間が流れ、廊下に響く足音だけが聞こえる中──結局最初に口を開いたのは私の方だった。 「・・・・・うん、行こう」 その返答にクライシュは、眩しい笑顔を見せる。はい、と腕を引かれて再び歩き出す。 無言となった間で、「それに」とボソリと呟きが聞こえてきた。 「──早めに溝は埋めた方がいいっすよね?」 ハッと横を見ると、こちらをニッコリと見つめるクライシュ。目の前に聳える扉を前に、そうだね、と私は微笑んだ。 そして、独り言のように言う。 「───・・・・・確かに早めがいいよね」
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