17.溝

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「え、フィウストって弟がいたの?」 てっきり1人っ子だと思っていた私は、予想以上に驚いてしまう。そういえば、フィウストは自分の事を必要以上に話していなかった。 やはり弟もフィウストのような性格なのか、と聞くと、ちょっと良くわかんないんすよね、という曖昧な答えが返ってきた。 「よくわかんないの?」 「うーん・・・・・正確には、何を考えているのかわかんないんすよ」 なんせ、無口な上に無表情っすから──顔を顰めてクライシュは言う。 アルマダとは違うベクトルで苦手な部類なのだと。 クライシュが言うには、〝猫被りな狼〟な奴らしい。 隣に目を向けると、変わらず植物の魔素に混じって巨大な魔素の塊が見える。 ふぅん、と言葉を返しながら視線を戻した。徐にクライシュの手を握る。 ──別に知ったからといって、会いにいく訳では無い。 「──行こ、お腹空いた」 兵舎へと向かおうとする私に、立ち止まったままクライシュが言う。 「・・・・・会わなくていいんすか?」 「いーの。お腹空いたんだってば」 そう言ってもう一度手を引くと、今度はあっさり動いた。そのまま植物園を後にする。 暫く歩くと、昨日ぶりの王宮騎士団専用の兵舎が見えてきた。 ──ウェルバートから聞いた話によると、どうやら昨日の一件で闘技場の結界が損傷した為、数日は闘技場が使えないとのこと。 ある意味(・・・・)ウェルバートのせいなのだが、直接的には暴走を起こした私のせいなので、どうもいたたまれない気持ちになってくる。 ───・・・・・あの時、誰かがいた気がする。 思い出すのは、ひんやりと冷たい手。・・・・・あれは、本当に誰だったのか。 それだけが、心に(わだかま)りとなって残される。 ──あの時感じた懐かしさは何だったのか。 「ほら、入るっすよ」 その声で、意識が現実へと引き戻された。扉に手をかけようとしたクライシュの後ろへと、急いで隠れる。
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