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「え、フィウストって弟がいたの?」
てっきり1人っ子だと思っていた私は、予想以上に驚いてしまう。そういえば、フィウストは自分の事を必要以上に話していなかった。
やはり弟もフィウストのような性格なのか、と聞くと、ちょっと良くわかんないんすよね、という曖昧な答えが返ってきた。
「よくわかんないの?」
「うーん・・・・・正確には、何を考えているのかわかんないんすよ」
なんせ、無口な上に無表情っすから──顔を顰めてクライシュは言う。
アルマダとは違うベクトルで苦手な部類なのだと。
クライシュが言うには、〝猫被りな狼〟な奴らしい。
隣に目を向けると、変わらず植物の魔素に混じって巨大な魔素の塊が見える。
ふぅん、と言葉を返しながら視線を戻した。徐にクライシュの手を握る。
──別に知ったからといって、会いにいく訳では無い。
「──行こ、お腹空いた」
兵舎へと向かおうとする私に、立ち止まったままクライシュが言う。
「・・・・・会わなくていいんすか?」
「いーの。お腹空いたんだってば」
そう言ってもう一度手を引くと、今度はあっさり動いた。そのまま植物園を後にする。
暫く歩くと、昨日ぶりの王宮騎士団専用の兵舎が見えてきた。
──ウェルバートから聞いた話によると、どうやら昨日の一件で闘技場の結界が損傷した為、数日は闘技場が使えないとのこと。
ある意味ウェルバートのせいなのだが、直接的には暴走を起こした私のせいなので、どうもいたたまれない気持ちになってくる。
───・・・・・あの時、誰かがいた気がする。
思い出すのは、ひんやりと冷たい手。・・・・・あれは、本当に誰だったのか。
それだけが、心に蟠りとなって残される。
──あの時感じた懐かしさは何だったのか。
「ほら、入るっすよ」
その声で、意識が現実へと引き戻された。扉に手をかけようとしたクライシュの後ろへと、急いで隠れる。
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