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どうしていいか分からずにオロオロする私に、クライシュが助け舟を出す。
「えーっと・・・・・ちゃんと練習通りに言えたっすね!!」
そう言うと、クライシュは乱暴に頭を撫でる。グシャグシャと頭を揺さぶられながら、「う、うん・・・・・」と私は微妙な笑顔を浮かべた。
───・・・・・子供に、こんな謝罪の仕方を教えるのか普通は。
もっと良いフォローはなかったのか。・・・・・そう思わずにはいられない。
しかし幸いなことに、相手は単純な性格だったようで、簡単にそれを信じた。
ああ!と、察した風にポンと手を打つ。
「練習したんですね!! 偉いなぁ」
「えへへー」
顔の引き攣りが止まらない。自分でも、笑いながらも頬がピクピクしているのが分かる。
どうやら都合の良いことに、クライシュの思惑通り『この謝罪は前日に練習したものですよ』と、勘違いしてくれたようだ。
段々と視線が離れていくのを感じながら、招かれるままにクライシュの隣の席へと座る。
ふぅ、と一息ついた時、不意に「おい」と声をかけられた。
顔を見ると、先日ぶりの顔が──3つ。
「ウェルから聞いたぞ、闘技場を壊しやがったんだってな。一体何をしでかしたんだ?」
やけにそこだけを強調してフィウストは言う。その背後に漂う黒いオーラを、見て見ぬ振りをして私は無邪気に笑った。
「別にわざとじゃないもん。それに、変なことは何もしてないし」
「いーや、絶対何かやったね。そうじゃなきゃ、あんな簡単に結界が破れる筈がない」
ふと、閃いた。ビシッと人差し指を立てる。
「・・・・・、あ!! もしかして老朽化?」
そんな私の閃きを、やれやれとでも言うようにフィウストはため息をついた。
憐れむような目で、見下ろされる。
「・・・・・、結界に老朽はないっていう常識は知ってるか?」
・・・・・全く、いちいち嫌味ったらしい奴だ。
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