17.溝

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私がジト目でフィウストを見返していると、後ろで隠れていたベルセルトが、ひょっこりと顔を覗かせた。 モジモジと、顔を赤らめて様子を伺っている。 「・・・・・よ、よう」 「さっきぶりだね、ベル君!」 営業スマイルで対応しながら私は思う──なんて純粋(ウブ)な子なんだろう、と。 まるで恋する乙女のような反応に、心が洗われていくようだ。 ──・・・・・色々な意味で、フィウストとは大違いである。 そう思った途端、不機嫌に挟まれる言葉。 「・・・・・、何か失礼な事を思ってないか」 「んーん、全然」 ───何故バレたし。 いやに鋭いやつだな、と苦々しい表情で小声で呟く。──なんだ、第六感でもあるのかこの男は。 「やっぱ、思ってたんじゃねーか」という声に、新たに地獄耳の疑いが浮上したその時。 ふと、ローブを軽く引っ張られる感触。向くと、赤くなっているベルセルトが、何か言いたそうにしている。 「あ、あのさ・・・・・」 「うん?」 目をそらしながら吃るベルセルト。 必死に何かを言おうとしているのは分かるが、如何せん言葉が出ず、その意思は読み取れない。 ───・・・・・何か言われることをしたか? 何もわからずに小首を傾げていると、ベルセルトの横にいたルーシュが渋々と代わりに言った。 その自然な動作からは〝慣れ〟のようなものを感じる。 「コウちゃん、兄さんが選んだ本は役に立った?」 どうやら、ベルセルトはさっきの本の事が聞きたかったらしい。 ・・・・・それを聞くまでに、どれ位の時間がかかっている事やら。 「うん!! ありがとう、ベル君」 「良かった」と答えるルーシュの横では、期待通りの答えが聞けた安心感から、ほっと息をつくベルセルトが。 横目でそれを見たルーシュが、ニコニコと一言付け足す。 ・・・・・意地悪そうな笑みだ。私はそれによく似た笑顔を知っている。 ──それは言わずもがな・・・・・ウェルバートしかいない。
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