17.溝

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───────── 時は少し遡る── コウとクライシュの2人を見送り、一息ついた部屋の中。ノノは扉の方に視線を送りながら、作業中のウェルバートに話しかける。 「・・・・・、相変わらず、お腹は真っ黒だね? ウェルバートのは」 「───お前もな(・・・・)、シノサキ。如何にも自分は被害者です、みたいな顔だったが?」 トントン、と書類の端を揃えるウェルバート。壁に体を預けて、ノノは笑みを浮かべた。 それは、コウの前でしていた笑みとは違う。──嘲笑するような笑み。 「そう? でも、話を持ちかけたのはそっちでしょ──ボクはただそれに乗っただけ」 あくまでも自分は白だと逃げる台詞に、ウェルバートが目を細めて笑う「───それはどうだか」 「・・・・・危険を承知の上(・・・・・・・)で、あの場を放置した奴のセリフか? ──試したかったんだろ、あの召喚獣を」 ノノも「ウェルバートだって」と、悪戯っぽい笑顔で言い返す。ズレた眼鏡をかけ直した。 「──試したかったんでしょ? 地下は魔素濃度が低い(・・・・・・・)と知った上で、あの子が戦えるかどうかを」 あの日(・・・)の為に── 確信を持ってノノが言えば、さあな、とはぐらかされる答え。食えない野郎だと言う風に、ノノは肩をすくめた。 「要するに」とそれを見たウェルバートが、ニヤリと口角を上げる。 「珍しく、お互いの利害が一致した──たったそれだけだろ?」 「まあ、今さら文句(・・)は無いけどね」 「お陰で興味深いものも見れたし、ね」そう言って壁から離れ、書机に片手をつく。 上から威圧を放ちつつ見下ろすが、ウェルバートは動じない。 ノノの方は目もくれず、手にした書類に目を通す。その視線を動かすこと無く呟かれた低い声。 ──それは聞いた人の背筋をざわつかせるような、ゾッとさせる声音。 「─── 本気で(・・・)遊んで欲しいのか?」 「・・・・・、まさか。遠慮しとくよ」
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