5933人が本棚に入れています
本棚に追加
一瞬固まったノノだったが、両手を上げて降参のポーズをとる。ちら、と見て鼻を鳴らしたウェルバートは、再度書類に目を滑らした。
紙束を手にしたまま、不意に思い出したように言う。
「・・・・・騎士団の所に遊びに行かなくてもいいのか?」
ノノの定位置は模擬闘技場、と言っても過言ではない。余程のことがない限り、その場から離れたりはしない筈なのだが・・・・・。
今日は珍しくウェルバートの傍を離れない。
ウェルバートの言葉に、ノノは小さな子供のように口を尖らした。そこからは不満気な様子が滲み出ている。
「──だって、まだ修理してないでしょ? あの人が来てないみたいだし・・・・・今は遊べないよ」
知ってて聞いたでしょ、と付け加えられた言葉に、まあな、とウェルバートは軽く笑った。
「安心しろ。お前の師匠が来たら、直ぐに会わせてやる」
ウェルバートらしからぬにこやかな表情。同じような表情で、ノノが「ありがとう」と感謝の言葉を言う。
──しかし、笑顔を浮かべているはずの顔の目は笑っていなかった。
トン、と軽く机の上に乗る。
「───その前に全力で逃げるね。・・・・・それとお礼に、とっておきの召喚獣でも贈ろうかな」
脅しとも取れるその言葉。ノノを知る者ならば震え上がるような内容だが、ウェルバートはフンと鼻を鳴らすだけだった。
「では、そのお気に入りの召喚獣を使ったディナーをご馳走しよう」と、視線を上げずに言う。
「・・・・・、ウェルバートは本当にやりそうだから怖いんだよ」
魔物のステーキは遠慮したいかな、そう言ってノノはスタスタと扉の方に歩いていく。
「──どこへ行く」
「そろそろ、自宅警備員の仕事を始めようと思ってさ。───闘技場に、ね」
「・・・・・闘技場は自宅じゃないぞ」
「わかってるって」
ひらひらと手を振り、廊下に出るノノ。あとにはウェルバートだけが残された。
・・・・・いや、正確にはウェルバートを警護する透明な魔物も隠れているのだが。
最初のコメントを投稿しよう!