17.溝

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一瞬固まったノノだったが、両手を上げて降参のポーズをとる。ちら、と見て鼻を鳴らしたウェルバートは、再度書類に目を滑らした。 紙束を手にしたまま、不意に思い出したように言う。 「・・・・・騎士団の所に遊びに行かなくてもいいのか?」 ノノの定位置は模擬闘技場、と言っても過言ではない。余程のことがない限り、その場から離れたりはしない筈なのだが・・・・・。 今日は珍しくウェルバートの傍を離れない。 ウェルバートの言葉に、ノノは小さな子供のように口を尖らした。そこからは不満気な様子が滲み出ている。 「──だって、まだ修理(・・)してないでしょ? あの人(・・・)が来てないみたいだし・・・・・今は遊べないよ」 知ってて聞いたでしょ、と付け加えられた言葉に、まあな、とウェルバートは軽く笑った。 「安心しろ。お前の師匠(・・)が来たら、直ぐに会わせてやる」 ウェルバートらしからぬにこやかな表情。同じような表情で、ノノが「ありがとう」と感謝の言葉を言う。 ──しかし、笑顔を浮かべているはずの顔の目は笑っていなかった。 トン、と軽く机の上に乗る。 「───その前に全力で逃げるね。・・・・・それとお礼に、とっておき(・・・・・)の召喚獣でも贈ろうかな」 脅しとも取れるその言葉。ノノを知る者ならば震え上がるような内容だが、ウェルバートはフンと鼻を鳴らすだけだった。 「では、そのお気に入り(・・・・・)の召喚獣を使ったディナーをご馳走しよう」と、視線を上げずに言う。 「・・・・・、ウェルバートは本当にやりそうだから怖いんだよ」 魔物のステーキは遠慮したいかな、そう言ってノノはスタスタと扉の方に歩いていく。 「──どこへ行く」 「そろそろ、自宅警備員の仕事を始めようと思ってさ。───闘技場に、ね」 「・・・・・闘技場は自宅じゃないぞ」 「わかってるって」 ひらひらと手を振り、廊下に出るノノ。あとにはウェルバートだけが残された。 ・・・・・いや、正確にはウェルバートを警護する透明な魔物も隠れているのだが。
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