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「お前から見て、あいつはどうだった?」
そう投げかけられた言葉はあまりにも抽象的過ぎた。
一瞬、ファーファラは顎に手を当てて考え込む。対峙した時はどうだったか───少しして顔を上げた。
「ただの子供ですね。歩き方や呼吸の仕方、視線の動き──全て見ましたが、典型的な一般人のパターンです。・・・・・少なくとも暗殺者ではないかと」
表情一つ変えずに淡々と答えるファーファラ。だが心の内では、自身の主人に対する疑問を抱いていた。
いつもならば、他人に興味を持たない主人からの質問。それは主人自身の実子であっても例外ではない。
───不思議でならなかった。ここまで肩入れしてくるのが。
そこまでの実力者とでも言うのか。・・・・・主人を唸らせる程の──そう、自分以上の能力を持つとでも言うのか。
自問自答。そうしてある事を思い出した。──それはクライシュが言っていた言葉。
──あの子はもう既に〝化け物〟だと。
「───ただ、魔力量は化け物としか言いようがありませんね。私もクライシュさんと同意見です」
〝空気中の魔素を練らずに、魔法を使う少女がいるらしい〟
──いつの間にか広まったのか。それはある一部のみに広がっている噂。
固有スキル持ちの再来か、という噂も同時に上がっている事はウェルバートも認知していた。
しかし、その真偽は定かではない。
困ったように眉を顰めるウェルバート。相手が幼い子供という事もあり、どう扱えばいいのかいまいち分かっていない。
この件は、珍しくウェルバートを悩ませていた。
その表情が不満気に見えたのだろうか。ファーファラが若干不安げに主人の顔色を窺う。
「・・・・・どうかなさいましたか」
「──いや、何でもない。・・・・・やはりあいつは一般人か」
「ええ、それは間違いありません」
そうか、とウェルバートは膝上の本に目を向ける。その表紙に書かれていたのは、『伝説上の希少種族』という文字。
そこに僅かに積もった埃を、手で軽く拭って呟いた。
「・・・・・まさか、な」
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