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その予測が外れたのは、クライシュの話を聞いた後すぐの事だった。
「紅い月の日?もちろん、参加させるつもりだが」
「え゛」
「何を驚く。当然だ」
あっさりとそう言い切ったウェルバート。──てっきりその日は、自宅警備員という立派な仕事をするのかと思っていたのに。
───・・・・・闘技場の件があったというのに、またあんな闘いをやらせるのかこの鬼畜は。
本当にウェルバートからの呼び出しは、ろくなものがない、と心の中で悪態をつく。
負けじと声を張り上げた。流石に、命を賭けるわけにはいかない。
「こんな《・・・》いたいけな幼女を働かせるんですか!?」
「普通、Sランクの魔物を倒した人間を、いたいけな幼女とは呼ばない」
「・・・・・」
確かに、とすぐ傍で同意するクライシュの声。こらそこ、同意するんじゃない。
・・・・・わからなくもないが。
「で、でも、参加資格があるのはAランク以上じゃ・・・・・」
なおも引き下がらない私。ここで折れたら何か負けた気がする。
すぐに言い返されると思ったが、ふむ、とウェルバートは何か考え込んだ。ニコリと微笑を貼り付ける。
続いて出た言葉は、意外な台詞だった。
「───まあ、出たくなければ出なくてもいい。命の危険を伴うものだからな」
「・・・・・、えっ」
その答えは予想外以外の何物でもない。予想の斜め上を、マッハで越えていったような答えである。
「ほ、ほんとにいいんですか?」
「ああ、人手は足りている」
手のひらを返したような答えに、喜びかけた私だったが、ウェルバートの表情を見てピタリと動きを止める。
───ウェルバートが他人の〝心配〟をするはずがない。
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