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よいしょ、と私は残った本を抱えると、元の場所に戻す。───閉まっても尚ポッカリと空いた穴は、きっちり1冊分しかない。
つまり、ここに入っていたのは『必携詠唱集~初級編~』の1冊のみ。
それは、『伝説上の希少種族』という本が、ここに入っていた訳では無いという事を意味する。
・・・・・ますますあの本の正体が気になってきた。
「一体何処から・・・・・」
呆然となりながらも、そこだけを凝視する。──何度見ても、空いているのは1冊分だけ。
そんな私に、クライシュは待ちきれないとでも言う風に声をかける「おーい、終わったなら早く行くっすよー」
はいはい、と適当な返事をして、クライシュの元へと駆け寄った。ちら、と横目で見ると、変わらずに1冊分の穴が空いている。
「どうしたんすか?」
「───いや、勝手に現れる本ってあるのかなーって」
「・・・・・はあ?」
「ええっとごめん、ただの独り言!!よし、いこっか!!」
頭上にクエスチョンマークを浮かべるクライシュを置いて、先に歩く。まだ夕食には時間がある───向かうのは自室だ。
「・・・・・・・・」
そこに行く途中で、名も知らぬ使用人と数名すれ違う。
「───ほら、あれ」と、指さされるのは何度目だろうか。聞き耳を立てれば、話の内容がしっかりと耳に入ってしまう。
「何処の馬の骨かも分からない子供を、ここに入れるなんて・・・・・」
「しかも、騎士団の皆様が言うには、闘技場の結界を破壊したらしいわよ」
「まあ・・・・・!!そんな危険なモノ、なんで陛下は置いているのかしら」
「見た目は綺麗よね。・・・・・案外色仕掛けを使ったのかも」
「まだ子供なのに・・・・・なんて恐ろしい──」
何気なく目を向けると、そそくさと逃げるように視線を逸らし離れていく。
───こんな得体の知れないモノ、受け入れてくれない人が大半だ。
初日からそれは変わらない。
もちろん、あの塩対応のメイドさんも──
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