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その様子を見て、私はただただ苦笑を浮かべるしかなかった。心の中でフィウストに手を合わせておく。
「弄るのも程々にね・・・・・」
「はいはーい。──じゃ、また夕食時に」
「ん、またね」
気のない返事──あの様子では嘸かし面白可笑しく弄られるのだろう。・・・・・嗚呼、可哀想に。
バイバイと手を振り、クライシュに一時の別れを告げる。
──扉の細い隙間もピタリと閉じられると、そこは1人だけの空間。
誰もいないこの薄暗い部屋にぽつんといる自分、そこだけがやけに黒く目立っていた。
そう、魔素がやけに──
「・・・・・ああ、電気つけなきゃ」
パチン──スイッチを押すと、魔石から流れた魔力が設置してある魔道具を発動させる。
パッと明るくなった部屋で、私は真っ直ぐベッドへと向かった。
柔らかなソレに身を沈めると、途端に心が安らいでくる。スンスンと顔を押し付けて嗅ぐと、花の甘い香りがした。
そのまま横に投げ出している腕に視線を移す。
「・・・・・黒いなぁ」
自嘲的に浮かべた笑顔で呟いた言葉は無意識。
身体に収まりきれずにはみ出している魔素が、どす黒い渦を作って身体中を巡っていた。───嫌でも思い出してしまう。
どうしてかアレは聞き覚えのあるような言葉だった。
「〝化け物〟ねえ・・・・・やっぱ、幼女が強いと不気味なのかね」
今日で思い知った溝。意外にも、それは奥底まで根付いてしまったらしい。
もし、この状態が変わらなかったら───若干、それが怖いと思う自分がいる。
──徐ろに両手でパチンと頬を包んだ。
「・・・・・、よし。読むか!!」
よっこいせ、とそのモヤモヤを吹き飛ばすように起き上がる。──今は夕食時までにやる事があるのだ。
心を切り替えて懐から取り出したのは、先程隠した本──『伝説上の希少種族』である。
私の直感が「これだ」と言っている。・・・・・ここに私の正体があると。
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