5934人が本棚に入れています
本棚に追加
十分にこの姿を堪能した後に外へと出ると、待ってましたとクライシュが姿を現した。翡翠色の瞳が顔を覗き込む。
「もー遅かったすね」
「レディの支度は時間がかかるの」
「・・・・・、レディ・・・・・なんすかね?」
「おいコラ」
んーっと真面目に考え込むクライシュに、無意識に素で返してしまった。
──しかしクライシュよ、そこは考え込む所ではない筈だ。
その無駄なやり取りに挟まれる冷たい声。
「では、参りましょうか」
相変わらず表情を変えないファーファラの案内によって、ウェルバートが待つ大部屋へと向かう。
数分の徒歩の後、例の如くファーファラが扉を開けると、案の定不機嫌そうなウェルバートの顔が。
「・・・・・、遅かったな」
その若干の空白が不機嫌さを物語っている。
余計に強ばった笑いを浮かべつつも席につくと、間を開けずにウェルバートが口を開いた。
「・・・・・寄り道でもしていたのか?」
「いえ、寝てしまって・・・・・」
「そうか──・・・・・そう言えば、人だったな」
「・・・・・、あの、今の今までどんな認識を?」
「玩具」
即答したウェルバートに、「冗談でしょう?」と驚愕した顔を向ける。
そんな私に、真剣そのものだったウェルバートの表情が不意に緩んだ。
「冗談だ」
「・・・・・恐ろしい程全く笑えませんね」
『全く』という部分を特に強調し、キッパリと言い切る私。
・・・・・冗談にすら聞こえない事は黙っておこう。
最初のコメントを投稿しよう!