19.戦力強化週間

12/14
前へ
/387ページ
次へ
今日もウェルバートの前に食事はない。特にその事には触れずに、私は目の前に置かれた前菜に手をつける。 何故、毎回食事を見ているだけなのか──そう聞きたいのは山々なのだが、立場的にも余計な事には触れない方がいいだろう。 ───もし、性癖だと答えられた時にはどう返せばいいのか分からないし。 個人の性癖に偏見はありません、ええ本当に。 ──黙々と食べる私と、それを黙って見ているウェルバートという謎の構図。 そうして、漸くメインディッシュであるステーキに、ナイフを差し込んだ時だった。 「───伝説上の希少種族」 「・・・・・・・・」 呟くように聞こえたウェルバートの言葉。一瞬、肉を切る手が止まる。 しかし、即座に平静を装いナイフを動かした。 続いて問いかける声。 「──って知っているか?」 「・・・・・、聞いたこともありませんね──それが何か」 じゅわ──視線を落としたまま、肉汁が溢れ出る様子を眺める私。 カチャリ、とナイフと皿が触れ合う音。ソースと共に、切れた一口大の肉を口に運んだ。 数回の咀嚼───尚も私は顔を上げない。 「・・・・・いや? 書庫に『伝説上の種族』という本があってな。 意外と面白かった──ただそれだけだ」 「そうですか、今度読んでみますね」 最後の一口を飲み込み、顔を上げる。この部屋に入ってから、初めて視線が絡み合った。 ──お互い何も言わずに、ただただ顔を合わせるのみ。 ・・・・・それは、一見して意味の無い行動に見える。 ──が、そこでは水面下の読み合いが行われていた。 私はウェルバートの発言の意図を。ウェルバートは・・・・・恐らく、私の正体を。 意図はどうであれ、ウェルバートは私が人間では無いと、ある程度見当がついているのだろう。 少なくとも疑ってはいる。
/387ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5934人が本棚に入れています
本棚に追加