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──じゃあ、始めよっか。
その言葉で一斉に全員が構えた。真剣な眼差しで、私の手の中にある物を一心に見つめる。
見事に統率のとれた行動──そこは流石と言うべきなのか。
・・・・・これがただの氷の為じゃなければな。
それと、王宮騎士団の底力は是非とも他の場所で発揮してほしい。
少なくともこんな所で発揮するものではないだろう。
自分で撒いた餌とはいえ、なんだかなぁ、と微妙な気分だ。
しかし、ここまでしなければ絶対に参加してはくれなかっただろう。
すぅっと大きく息を吸って、ぎゅっと氷を握りしめる。心地の良い冷たさを感じながら、私は叫んだ。
「開始!!」
響き渡る子供特有の高い声。
その声が広がらぬ内に、ばっと合図もなしに動き出す。
さすがは王宮騎士団員。馬鹿の一つ覚えのように、大勢が一斉に飛びかかるのではなく、ちゃんと少数で連携をとって行動している。
しかし、そうして掴もうと必死に伸ばされた手も空を切った。
「───くそ!! あと少しだったのに・・・・・!!」
「おい、はさみ打ちだ!! 向こうからやれ!!」
「ちっ、ちょこまかと!!」
ひょいと高く飛び上がる度に、ローブの裾がふわりと舞う。
横から伸びてきた複数の手を、くるりと回って避ければ悔しそうな顔が視界に入った。
くすくすと獲物を見せびらかす。
「ほらほら、おにーさんたち頑張って~」
「・・・・・おちょくりやがってこの野郎!!」
子供に向けて言ってはいけないような汚い言葉を吐いてはいるが、その顔には笑顔が浮かんでいる。
───純粋に楽しんでいるのだ、これを。
「よし、そっち行ったぞ!!」
「うっし!! 任された!!」
捕まえようとする手から逃れた先に、待ち伏せしている団員。間一髪、体勢を無理矢理変えてそこから飛び退く。
───だが、当然逃げた先にも。
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