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訓練所から出て少し歩くと、そこは色とりどりの花々が咲く中庭。丁寧に手入れがされた花壇の傍には、簡易的なテーブルが置かれている。
2人はそこで魔法書を開いていた。そして、横には先生と思しき人物。
ぼんやりと立ち止まっていると、私たちに気づいたのか、俯かせていた顔が上がる。
───無表情ながらも端正な顔立ち。
「・・・・・・・・」
「あの・・・・・」
澄んだ深緑色の瞳がこちらに向いた。はらりと目元に落ちた紺髪をかき上げ、その男性は不思議そうな表情を浮かべる。
誰だろう? と考えるよりも先に、声変わりのしていない高めの声が飛び込んできた。
──ルーシュだ。
「あ、コウちゃんだ。どうしたの、何か僕らに用?」
本を読む手を止め、笑顔で対応するルーシュ。
表情は非常ににこやかなのだが、背後に何故か黒いオーラが見える。
更には、「僕らは見ての通り勉強中なんだよ。邪魔しないでくれない?」───という副音声も聞こえてきそうだ。
・・・・・相変わらずな態度である。私はそそくさと本題へと移った。
「えっと、あのね。頼みたいことがあって───」
魔法の使い方を教えて欲しい、と伝えると、意外な事にルーシュはあっさりそれを了承する。──てっきり、邪魔になるからと断られるかと思っていた。
「ああ、まだ習ってなかったんだね。───なら、丁度いいんじゃないかな」
ほら、とルーシュが手の平を向けたのはあの男性。続けて彼を紹介する。
「ロレンシオ=アドルグ先生。フィウストさんの弟で、魔法学の先生をして頂いてるんだ」
専門は精霊魔法らしいけどね、ルーシュが付け加えると、紹介された彼は軽く頭を下げた。
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