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「・・・・・インク壺?」
「ん、あげる」
魔法陣を描くには専用のインクが必要───それは魔石を原料とするもので、上質なものほど値が張るが質が悪いものでも少々お高いもの。
そんなものを、見知らぬ子供にポンと渡せるものなのだろうか───否、渡せないだろう。例えそれがお古だとしても、だ。
ほんとに? と疑惑の目で聞くが、こくりとロレンシオは頷く。
「簡単な魔法陣・・・・・なら、羊皮紙でも・・・・・出来る、から」
「ありがとう、ロレンシオ先生」
「ん、良かった・・・・・」
──その口角が僅かに上がる。
若干ではあるが、微笑んだようにも見えた彼の表情に、不覚にも可愛いと思ってしまった。
・・・・・ウェルバートとは違い、本当にいい人だ。私と同様に、ウェルバートの被害者であるノノと同等ぐらいだろうか。
片手に辞書、もう片方の手にインク壺を、零さないようにして持つ。
これで、あとは媒介となる羊皮紙だけか。
ウェルバートに頼んでみようか、などと考えつつ3人に別れを告げ、退屈そうに待っていたクライシュに駆け寄った。
「お待たせ。・・・・・ごめんね、長くなっちゃった」
「もー遅いっすよ・・・・・って、それ貰ったんすか!?」
怠そうに腰を上げたクライシュは、私の手の中にあるものを見て驚愕の表情を浮かべる。
ロレンシオ先生から、と伝えるとさらに驚いた様だった。
「ええっ!? ロレンシオって、あのロレンシオっすか!!」
「どのロレンシオか分からないけど、多分そのロレンシオだよ」
・・・・・クライシュが知っているロレンシオ先生は、一体何人いるんですかねぇ。
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