21.白の魔女

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へーえ、とインク壺を凝視するクライシュ。放っておいたらずっとその状態になりそうだ。 「ほら、もう行くよ」 「・・・・・はーい、今行くっす」 名残惜しそうな顔で見ているが、敢えて触れずに放っておく。今はさっさと部屋に戻って、借りた魔法語辞典を読みたいのだ。 そんなワクワクした気持ちを胸に、城の中へと入ろうとした───そんな時。 ───チクリ 見知った(・・・・)小さな痛みが首筋に走る。───忘れもしない、あの時の痛み。 ──エンシャと別れたあの夜の痛み、だった。 「・・・・・なぁーんか、嫌な空気っすねぇ」 クライシュもそれは感じているようだ。しかめっ面で辺りを見渡しては、ピリピリと警戒している。 一瞬にして張り詰めた空気。 何故ここに、だとか、何処にいるのだろう、という疑問が頭から離れない。それだけがグルグルと回り、心臓が大きく跳ね始めた。 ───感じたのは『緊張』である。 乱れる呼吸、湧き上がる不安。拳を握りしめていないと、何かが暴走しそうだった───しかし。 ───・・・・・まただ。また、これ(・・)だ。 ピタリ、と。 何かに強制されたかのように、直ぐに無くなってしまう(・・・・・・・・)。後に残るのは平坦な感情のみ。 そうしていつの間にか、刺すような痛みも無くなっていた。・・・・・結局、その正体も分からぬままで。
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