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ファーファラが肯定したことで、クライシュの警戒心が若干解かれたようだ。肩の力は抜かれたが、見定めるような視線は変わっていない。
そうか、彼女の黒い魔素を感じ取っているのか。
「・・・・・そうなんすね。んで、どこに行くんすか?」
「ちょっとオルディオ氏に聞きたいことが・・・・・でも、急用ができましたわ」
そう言うと、彼女は私のすぐ前まで近づく。後ずさりした私の顔に、甘い吐息がかかった。
「───ねえ、少しお話してもいいかしら」
優しい口調ではあるが、有無を言わせない響き。覗き込まれた瞳に、私の顔が映りこんだ。
───こくり、そう頷く事しか出来ない。・・・・・これは美人故の威圧感なのだろうか。
「ありがとう」と、笑顔で部屋の中に入るアリス。
それに続こうとした私に、クライシュが心配そうにこちらを見るのが目に入った。
「・・・・・大丈夫」
そう答えた後もクライシュの顔は晴れない。監視対象とはいえ、流石に気になるのだろう。
キィ、と音を立てて閉じる直前まで、クライシュは黙って見ていた。
・・・・・そして完全に閉じられる扉。私は改めて、自分のものでは無い魔素の塊を見つめた。
「まあ、素敵なお部屋ですのね!」
部屋に響く高い声。空気が読めないソレには、まるで初めて友達の部屋に遊びに来たかのような明るさがある。
私はソファーに座ると、対面の席を手で促す。アリスは上品にそこへ腰を下ろした。膝の上に手を乗せ、落ち着いている様子である。
───これはまさに綱渡り、しかし良い機会でもあるかな。
彼女は恐らくエンシャを襲った本人・・・・・なのだろう。エンシャの体内にあった魔素は、きっと彼女のものだ。
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