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まずい、と思う前に、自然と慌てた声が口から出てきた。
「───えええっと、ちょっとだけですよ!? 本当にちょっとだけ」
「わかってますわ」
微笑みながら答える彼女。───しかし、どこか悲しそうでもあって。
長い睫毛に縁取られた瞳を伏せると、独り言のようにぼやいた。
「我らが創造主様はもう・・・・・いませんのよ。悲しいことに、力は〝一部〟しか受け継がれておりませんの」
「・・・・・・・・」
「ああ、創造主様。お慕い申しております」と、悲嘆にくれた彼女が言う。
・・・・・アリスは『創造主様』を崇拝しているのか。
───なるほど。
その様子を見ながら、私は考える。彼女の発言によって、『創造主様』とやらが何者なのか見当がついた。
そう───希少魔族の突然変異種だ。黒の魔素を持つのだから・・・・・恐らくは。
だが、アリスの言い方も気になる。・・・・・突然変異種は一人しかいないような、まるでそんな言い方だ。
「・・・・・ごめんなさい、私としたことが取り乱してしまいましたわ」
彼女はレースのハンカチで目元を拭うと、ソファーに座り直す。元の笑顔へと戻った。
「それにしても珍しいですわね、野良で活動しているなんて」
「・・・・・、ええまあ、その方が動き易いので・・・・・アリスさんは?」
「私は人間相手に店を開いてますの。表向きは魔法薬を売っているのですが、一部の方々には魔法具も売っておりますのよ」
アリスは上手いこと人間に溶け込めているのだろう。口調からして、長年続けていそうだ。
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