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ドアを開ける直前、彼女は振り向いて何かを差し出す。手に持っていたのは小さな白いカード。
「ああ、最後にこれを───」
受け取ったそのカードには、『魔法薬専門店~白の魔女~』と丸っこい字で書かれている。
何の変哲もないカードだ───そう思ったが、裏を返して見れば細かな魔法陣が描かれていた。
・・・・・細すぎて、字がゴマのように見える。よく書けたな、これ。
「あの、これは?」
「私の店のポイントカードですわ。これに魔力を流すと、私の元に信号が来ますのよ」
「それはまた便利な・・・・・」
「大変でしたわ・・・・・この魔法陣を組むのには」
ほぅ、と頬に手を当ててため息を付くアリス。
魔法陣にもそんな使い方が、と敵ながら感心してしまった。
「───それではごきげんよう」
「・・・・・はい、またいつか」
颯爽と去っていくアリスの背を眺めていると、クライシュが顔を覗き込む。
「・・・・・、何も無かったっすか?」
「うん、へーき」
眉をひそめるその顔に笑顔を向ければ、視界にファーファラの姿が入ってきた。険しい顔で、アリスの去ったその一点をずっと見続けている。
「ファーファラさん・・・・・?」
「・・・・・、いえ、問題ありません」
直ぐにそう返されたものの、その表情は固い。いつもの無表情が微妙に崩れている。
───結局、私が夕食の為に離れるまで、ファーファラの視線は動かなかった。
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