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『よっしゃあ、捕まえたぞ!!』
同僚の声が遠くに聞こえる。皆が動く中で、僕一人だけが止まっている。
・・・・・まるで、ここで起きている全てが非現実のような。
───・・・・・そうだ、彼女は──バケモノだったはずだ。じゃなきゃ、あんなのを倒せるはずがない。
〝倒さなくちゃ〟
気づいた時には動いていた。
『くらえ!!』
踏み出した足、振りかぶった固い拳。───目の前にいるのは目を見開いている少女。
タイミングも良かった。スピードも威力も十二分にあった。・・・・・全てが完璧だった。
なのに。
───・・・・・なぜ、僕が吹っ飛ばされているんだろう。
紙一重で躱された拳はそのままの勢いで、体ごと前へ行く。横目で見えたのは、コウがその小さな握り拳を僕の身体の寸前で止める所だった。
それは、明らかな手加減である。
舐められている、と感じた瞬間に来たのは大きな衝撃。腹から広がるそれは、今までに受けた誰の攻撃よりも───重かった。
『攻撃するなんて聞いてないぞ!?』
『正当防衛だもん』
『いやあれは、過剰防衛・・・・・』
『幼女に手を出した方が悪いのー!!』
内臓が潰され、痛みを通り越した何かが湧き出る中、僕は考える。
───今までに出会った強者は何だったのか、と。
この少女と比べれば、誰もが抵抗力の持たない赤ん坊に等しい。
・・・・・もしかしたら、騎士団長であるフィウストですらも───・・・・・そうなのかもしれない。
そう思った瞬間、今までに積み上げてきたものが崩れると同時に悟ってしまった。
───僕は本物のバケモノに出会ってしまったのだと。
間違いなく、これが本物だと・・・・・知ったのだ。
意識を失う直前に目に入ったのは、やはり───愉しそうなコウの笑顔だった。
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