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「まずは前座として、氷の竜をご覧下さい」
これは以前ウェルバートにも見せた技。空気中の魔素を変換し、竜の形にするというものだ。
前はこれがメインだったが、今回は違う。
───今回は、時間稼ぎの為だけに行う。
「それでは───いきます」
息を一息。緊張していた身体を落ち着かせ、私は前を見据えた。・・・・・ここからだ。
ピンと張り詰める緊張感が肌を刺激する。
最初は、前戯。白い魔素を竜の形にゆっくりと整えながら、同時に〝型〟を自身の魔素で描く。
二人の前で身体をくねらせる竜の周りに数個の型。それらは、竜を囲むようにして無造作に設置させる。
そこに向けて私は手を伸ばした。
そして練習した通りに、黒い魔素を飛ばし文字の形を作る。
「───《魔素変換》」
全ての下準備は整った。あとは唱えればいい。
私は白い魔素にだけ意識を集中する。流動的で立派な竜の形に──
「《氷》」
その一言で、刹那、二人の目の前に巨大な竜が現れた。
それはあっという間にこの場にいる全員の視線を奪ってしまう程。
まるで水中を揺蕩う鯉の如く、美しい曲線を描きその場で停止している。
───熟練の職人が数年かけて作り上げたかのような造形物。
鱗一つ一つがシャンデリアの光を反射し、淡い虹色を放つ。離れている場所であっても、身震いする冷気が肌を撫でた。
「うっわ」と、思い出したかのようにフレデリカが呟く。無意識にその身は前へと乗り出していた。
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