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「ある職人に作らせた一品じゃよ」
銀で出来たブレスレットに、細かく掘られた花の模様はまるで本物のようで。・・・・・鮮やかに見えるような錯覚さえも覚える。
───しかし、驚いたのはその技術ではない。
「これは・・・・・」
ごくり、と喉が鳴る。
黒い魔素。───それが込められていたのだ。
「どうじゃ、気に入ったかの? ・・・・・ならばぜひ、つけてみて欲しいのぅ」
背筋を襲う若干の身震い。
だが、グラーフはその事に気づかず聞いた。続けて発せられた言葉に再び息を呑む。
「───この場で」
「・・・・・っ」
目の前に差し出されるどす黒い腕輪。私にとっては、美しい銀細工であろうソレが醜いものに見えた。
「いえ、そんな勿体無い・・・・・」
「そんなことは気にしなくていいんじゃよ。それよりも、ぜひ腕に付けてみて欲しいのぅ」
ずいっとやけに執拗く勧められる。・・・・・それもそうなのかもしれない。明らかに怪しいのだから。
それでも拒否するわけにはいかず、震える手でソレを受け取れば、それを見たグラーフは口元を歪めた。
「・・・・・」
手に取って改めてわかる───これを身につけるのは危ない、と。
自分のものでは無い魔素が、粘りつくように私の肌を伝い侵入しようとしてくる。
今は自分の魔素で防いではいるが・・・・・。
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