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───・・・・・ああ、でも。
絡み合うその黒い奔流を見下ろし、暫しの間顔を俯かせる。
・・・・・もしかしたら、と閃いた。この黒いものが魔素なら。───そう、この魔素が〝術〟そのものだったなら。
私はそっと小さく唇を動かした。
「・・・・・《解》」
───やっぱ思った通り。媒介は何でもいい、大切なのは魔素だった・・・・・ってわけか。
その言葉を呟いた瞬間、あれだけ激しかった魔素の勢いは弱まり、私の意思通りに散らばっていく。───腕輪から離れた魔素は、自然と姿を消していった。
残されたのは、只のブレスレット。
綺麗に施された花の彫刻は、もう〝黒く〟ない。
漸く俯かせていた顔を上げ、グラーフにニッコリと笑いかける。
「オルディオさん、どうもありがとうございます」
「・・・・・あ、ああ。礼には及ばんよ」
突然表情を変えた私を見て、グラーフは少し驚いたようだった。一瞬だけ目を見開き、ブレスレットを持つ私を見下ろす。
さあ、腕輪を付けようか───そう思った時だった。その言葉を思い出したのは───。
『ここの王宮魔術師総長──グラーフ=オルディオ氏に招待されましたの』
・・・・・その台詞を言ったのは誰だったか。そうだ、あれは確か・・・・・。
ピタリと腕輪を嵌めようとした手が止まる。完全に思い出した、忘れもしないあの女性。
───・・・・・アリス=モードレッド、だ。
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