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無意識に懐に手を伸ばせば、硬い感触。アリスがくれたもの。───そう、それも腕輪・・・・・だった。しかも、これと同じく黒い魔素が含まれた腕輪。
・・・・・そして、それは奴隷にさせる為の。なら、これは?
再び、手元のブレスレットに視線を落とす。───錯覚なのか、花の模様が歪んで見えた。
───まさか、これも。
「どうしたのじゃ?・・・・・つけないのかね?」
グラーフの言葉には、焦りのようなものが見え隠れしていた。痺れを切らし、その瞳は血走っている。
・・・・・しかし、私はそんなことは気にも止めなかった。
───気になったのは、ただ一つだけ。
「・・・・・じゃあ、エンシャ・・・・・エンシャは」
そう震える声は、幸いにもグラーフには届いていないようだった。
今更ながら彼女の眩しい笑顔が思い出される。今すぐにでも駆け寄りたい、そして抱きしめたい。
───あの頃のように。
何故だか、そんな思いばかりが胸の奥深くから湧いてくる。とめどなく、止められない程。
───聞かなきゃ、彼女に・・・・・エンシャの事を。
グラーフを押し退けてでも、今すぐアリスの元に行きたいが、ここでは些細な騒ぎをも起こしてはいけない、と理性が押し止める。
だめだ、ここは大人しくしていないと。
一つ大きく息を吐けば、不思議と昂っていた感情が平坦に戻る───それは何度か経験していた感覚だ。
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