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───・・・・・でも、行かなきゃ。聞かなきゃ。
手の上の腕輪───銀細工が施されたソレを見下ろすと、その手に軽く力を込めた。
瞬間───パキンッ、とあっけなく割れるブレスレット。バラバラに崩れた腕輪は、音を立てて床に落ちる。
「コウ殿、一体何を───」
私は静かに前を向く。目の前には狼狽える顔・・・・・だが、すぐに憎々しげに歪められる。
それをじっと真顔で見ていた私だったが、ふっと表情を緩めた。
感情を抑え込んでにっこりと笑顔。
「───私、知らない人からものは貰っちゃいけませんって言われてるんです。これ、魔道具ですよね?」
「どうしてそれを・・・・・まさか、あの女がワシを騙して・・・・・」
「まあ、それはご想像にお任せしますってことで」
それよりも、と私はグラーフの顔を下から覗き込んだ。身構えるも、憤慨を含んだ瞳と目を合わせる。
「これを作った方は、今どこにいますか? 直接お礼が言いたいんです───ね、教えてください」
「そ、そんなこと───」
「言わなきゃ・・・・・ねぇ」
こうしている間にも、自分の中の魔素は感情に呼応するように巡り暴れる。
───急激昂った感情は抑えられても、ふつふつと静かに湧き上がる黒い感情は抑えられない。
気をつけていなければ、魔素がそのまま目の前の老人に襲いかかりそうだった。
早く行かないと、と焦りばかりが積もる。───そうして最後のひと押しと、脅しをかけようと思った時だった。ようやく、固く閉じていたグラーフの口が開く。
「・・・・・っモードレッドなら、そろそろ出発するはずじゃ。もう───」
グラーフが何か言う前に私は部屋を飛び出す。ファーファラとクライシュが二人して驚いたような顔をしていたが、立ち止まりはしなかった。
───目指すは城の出口へ。
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