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───魔法陣の前の前座。
彼女は何やら呟いていたようだったが、詠唱ではなかった。無詠唱の可能性もあるが、あんな魔法は見たことがない。
ねえ、とウェルバートに答えを求めると、苦虫を噛み潰したような顔をしている。扉の前で待機していたフィウストも同じような顔をしていた。
表情の固いフィウストまでも、顔を変えたことにフレデリカは驚く。
「───二人ともどうしたの?」
「・・・・・いや」
歯切れが悪い答え。若干ウェルバートの目線が逸らされていることに気づき、フレデリカは首を傾げた。
何か知っているのだろうか、と思い問いかけてみると、一つ息を吐いてからウェルバートが答える。
「───クライシュが言っていたんだ」
「・・・・・クライシュ君が?」
フレデリカの脳裏に浮かんだのは、笑顔を浮かべるくせっ毛の精霊。昔に数回話した記憶がある。
そうだ、と頷いたウェルバートは話を進めた。
「あいつが、あれは〝魔法〟じゃなかった───と」
「・・・・・魔法、じゃないの?」
「どうもそうらしい。魔力は感じられたが、それは本人のものでは無い、と言っていた」
「本人の魔力じゃない・・・・・じゃあ、誰の? 他の人が代わりにしているっていう可能性もあるでしょう?」
タイミングさえ合わせればできない話ではない。魔法陣とは違い、練習を積めば位置指定をして魔法を発動することも可能だからだ。
もっとも、それには大量の時間消費と練習量が必要になる上に、一部の魔法しかできないのだが。
ウェルバートは首を振る。
「気配は感じられなかったそうだ」
「なら、それだけの強者が・・・・・」
フレデリカの推論は、ウェルバートの強い声によって遮られた。
「───空気中の魔素を使ったらしい」
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