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───やや朱色に染まる空に包まれ、花びらの舞う景色の中に見えたのは、やはり女神のような美しさを持つ女性だった。
私の気配を感じ取ったのか、ロングワンピースの裾を揺らめかせて振り向く。
銀糸のように煌めく白髪、アメジスト色の瞳───そして、優しげな微笑み。
しかし、彼女は───
「アリスさんっ!!」
徒ならぬ様子で走り寄る私に、まあ、と小さく声を上げるアリス。
「どうなされましたの? そんなに急いで」
今から帰るところだったのだろう。鞄一つと手持ちの荷物は少ないものの、日傘片手にその歩く方向は門へと向いている。
アリスが立ち止まったのを見て私も足を止める。後ろに迫るクライシュの気配を感じながら、質問を口にした。
真っ直ぐに紫色の瞳を見つめて、ために溜めた言葉をゆっくり吐く。───心臓の鼓動が早くなった。
「・・・・・死神の森にいる竜、今どこにいるか知っていますか」
「竜・・・・・」
うーんと宙を見つめて考え込む。その様子からは、全く誤魔化す気配が感じられなかった。───本当は知らないのだろうか。
私の考えすぎだったのか、と思い始めた時だった。アリスが、ああ、と手を叩く。間延びした声で微笑む。
「そういえば、いましたわ」
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