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「あら」
凍りついたように棒立ちになる私に対し、アリスは空を見上げて独りごちた。
日傘を差し直し、胸元のネックレスを持ち上げる。
その先には小さい転移石が。
「もうこんな時間・・・・・私はそろそろ───」
「待って・・・・・ください」
別れを言いかけた彼女に、私は短く制止の声をかけた。
踵を返そうとしたアリスの動きが止まる。
「・・・・・お願いがあるんです」
橙がかった紫の瞳を静かに見上げた。
二人の間に流れたそよ風がアリスの白髪を揺らし、銀色に光らせる。
「何ですの?」
アリスは少し驚いていた。それは、少女──コウの印象があまりにも違っていたから。
あの時とは違い愛想笑いすらない顔、そして刃物のように鋭い視線。その紅い瞳は静かな怒りが篭っていた。
「その人形、私のなんです。───返してくれませんか?」
「・・・・・まぁ、そうでしたの」
ニッコリとその視線を受けて尚、微笑み続けるアリス。
私は八の字に眉をひそめる。本当に表情が読めない。
困惑したその時、「コウちゃん!!」と男性にしては少し高めの声が背後から聞こえた。
振り返らなくても分かる───クライシュだ。
「こんなとこにいたんすか・・・・・いきなり、飛び出して何を───」
軽く響いていた足音が後ろで止まる。タイミングがタイミングの為に、私は眉を八の字にしかめた。
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