26.中庭にて

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・・・・・一足遅かった。 「クライシュ!!」 そう叫んだ声は虚しく消え、駆け寄ろうと踏み出した足は彼の手前で留まる。 既にもう───終わっていた(・・・・・・)のだ。 ここからではアリスと重なって様子がよく分からないが、黒色と白色が混じりあっているのだけはわかった。 「・・・・・まあ、あなたも〝譲渡〟されていましたのね。ほんの僅かですけれど」 ・・・・・譲渡? クライシュと希少魔族とで何か関わりがあったのか・・・・・? ようやく聞けた言葉は、何の手がかりにもならなそうな情報。 何が楽しいのか、クスクス笑いながらアリスはクライシュから離れる。 重なっていた障害物が無くなったことで顕になる姿。私はそれを見て、顔を顰めずにはいられなかった。 「・・・・・クライシュ」 ───この声も届いていないのかもしれない。そんな考えが頭をよぎった。 正確に言えば、アレは〝クライシュ〟ではない。・・・・・ただの〝容器〟なのだろう。 その瞳に光はなく、どこか宙を見つめるだけ。 なんの反応もない───まるで中身だけを抜き出したかのような状態になってしまっていた。 アリスは妖艶な動きで〝彼〟に寄り添う。 「───私の可愛い可愛いお人形さん、この国ごとぜーんぶ邪魔者は消してくださいな」 首に腕を回し、アリスは恋人さながらに耳元で唇を近づけ言った。───それは悪魔の囁き。
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