26.中庭にて

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「・・・・・そんなこと、やらせたら・・・・・」 王宮騎士団、副団長クライシュ=ノーム。それなりの実力を持ち、この国での人気も高い。その上、ウェルバートの護衛役兼使い魔の王族精霊でもある。 そんな彼があちら(・・・)側に転じたら・・・・・人間如きに止められるわけが無いのは明白。ウェルバートを含め、まともに戦えるのは少ないだろう。 例え数で補ったとしても、いつまでもつだろうか。 「───・・・・・止めなきゃ」 これは私が招いたことだ。 自然と口が動く。その目はまっすぐにクライシュを見ていた。 くすり、と笑う声が聞こえる。見ると、アリスが微笑んでいた。 「あらあら、やる気満々ですわね。じゃあ、私はここで・・・・・」 「・・・・・・・・」 そう言う彼女の手には、転移石。恐らく彼女は自分の住処に戻るのだろう。 しかし、私は止めない。止めることが出来ない、クライシュを放ってはおけないのだ。 ・・・・・アリスが去ったその後に残ったのは、〝黒〟に染められたクライシュ。ちらほらと白は見えるものの、完全に黒色に支配されている。 それは本当の意思を持たない人形のようで。 これから起きるであろう出来事を考えるだけで、冷や汗が垂れてくる。 ───さて、本番はここからだ。 身震いする華奢な身体を支え、私はじっと眼前の黒を見つめた。
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