26.中庭にて

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「ちゃっちゃと治しましょーか」 ぱんっと勢いよく手を合わせる。 軽い口調とは裏腹に、私の内心は焦っていた。・・・・・治し方に思い当たりはあるし、やり方に問題はないだろう。 しかし、相手は上位の精霊だ。その上、意識を持っている。 ・・・・・どれだけ無傷で、気を失わせることが出来るのだろうか。 そして、どれだけ無傷でいられるだろうか。 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・」 対峙する二人の間に緊張感が漂う。不自然なほど無言の空間で、草の擦る音が静かに響いている。 ・・・・・下手に動けないな、こりゃあ。 一歩でも動くと、瞬間、殺られそうな雰囲気。───何の少年漫画だよ、とツッコミたいのをぐっと堪えた。・・・・・流石に空気ぐらいは読む。 状況は変わらず。息をつくのでさえ辛く思える。 恐らく、クライシュは目の前の敵を倒す・・・・・という指示を与えられているようで、私の他には目を向けていない。 まさに不幸中の幸いである。 私が倒れれば他に手をつけるのだろう。言い換えれば、私さえ(・・)倒れなければ他は助かる。 フレデリカはウェルバートと共に談笑中、ベルセルトとルーシュはフィウストに剣術を教わっている。 ロレンシオはここから離れた植物園に、ノノは・・・・・まあ、多分闘技場だろう。二人とも引きこもっているはずだ。 助けを呼ぶには遅すぎる。 そう───ここには、私しかいない。
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