26.中庭にて

11/22

5934人が本棚に入れています
本棚に追加
/387ページ
夕焼け空を背景に、クライシュがこちらを見下ろしている。・・・・・その瞳に光はなくて。 それを見て、逸らすように目を伏せる。 「・・・・・どーにか、無傷で拘束したかったんだけどなぁ・・・・・」 苦笑して呟いた言葉すら、彼には届かないらしい。黒々としたものが、身体全体にまで広がってしまっている。 私だって、知り合いに手をあげられるほど情がない訳では無い。出来るならば戦いたくはない。 ・・・・・しかし、このままでは。 「仕方な───ぅぐっ!?」 一瞬、息が止まった。 依然として胸ぐらは掴まれたまま、もう片方の手で喉を押さえつけられる。・・・・・細腕にこんな力があるとは、さすが人外。 ───なんて、感心している場合ではないな。 人間ではとっくに折れているであろう力量。かろうじて首の皮一枚繋がっている状態に安堵する。 ───しかし、打開策が見当たらないのも事実。 「・・・・・っぐ、は」 「・・・・・・・・」 自身の荒い息だけが聞こえてくる。対するクライシュは無言、それが一段と不気味だ。 ───その上、だ。 「・・・・・な、んで」 絶望に満ちた声。ミシミシと骨が軋む音が耳の奥で聴こえる───私はあっさりと掴む手を離した(・・・)。 気づいてしまったのだ。・・・・・この瞬間に。 ───クライシュの魔素に干渉できないことに。
/387ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5934人が本棚に入れています
本棚に追加