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夕焼け空を背景に、クライシュがこちらを見下ろしている。・・・・・その瞳に光はなくて。
それを見て、逸らすように目を伏せる。
「・・・・・どーにか、無傷で拘束したかったんだけどなぁ・・・・・」
苦笑して呟いた言葉すら、彼には届かないらしい。黒々としたものが、身体全体にまで広がってしまっている。
私だって、知り合いに手をあげられるほど情がない訳では無い。出来るならば戦いたくはない。
・・・・・しかし、このままでは。
「仕方な───ぅぐっ!?」
一瞬、息が止まった。
依然として胸ぐらは掴まれたまま、もう片方の手で喉を押さえつけられる。・・・・・細腕にこんな力があるとは、さすが人外。
───なんて、感心している場合ではないな。
人間ではとっくに折れているであろう力量。かろうじて首の皮一枚繋がっている状態に安堵する。
───しかし、打開策が見当たらないのも事実。
「・・・・・っぐ、は」
「・・・・・・・・」
自身の荒い息だけが聞こえてくる。対するクライシュは無言、それが一段と不気味だ。
───その上、だ。
「・・・・・な、んで」
絶望に満ちた声。ミシミシと骨が軋む音が耳の奥で聴こえる───私はあっさりと掴む手を離した。
気づいてしまったのだ。・・・・・この瞬間に。
───クライシュの魔素に干渉できないことに。
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