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「なんで、あんなことっ・・・・・」
周りの景色が目まぐるしく変わる。僅かな間に起こったあの出来事を私は忘れられない。
どうすれば良かったのだろう。
年甲斐もなく泣きそうになるが、目を押さえて堪える。今はただただ急がなくては。
長いように思えた廊下はやけにあっさりと終わり、目の前には見慣れた扉。いつも以上に大きく思えるそれに、ごくりと喉が鳴った。
「失礼します・・・・・」
緊急事態ならば断る必要はないのだが、そうとも限らないので一応。
───しかし返事はない。人の気配は確かにあるのにも関わらず、だ。
これは緊急事態か、と恐る恐ると僅かに開いた隙間に見えたもの。それは意外な光景だった。
「ファーファラ、さん?」
「・・・・・お待ちしておりました、コウ様」
玉座にウェルバートの姿はなく、代わりにいたのはメイド服に身を包んだ女性だった。
ファーファラは相変わらずの無表情で、ゆっくりとこちらへと顔を向ける。
ウェルバートがいないことに疑問を持つ。
「ウェルバート様は・・・・・? クライシュが今、大変なことになっていて───」
「存じ上げております。それに、ウェルバート様は既に聖殿の中で治療中です」
「・・・・・知ってたんですか」
使い魔と契約主は繋がってますから、と無機質な声であったものの、その内容にほっと息をつく。
聖殿内の治療というのだから、それなりの方法を行っているのだろう。それならば、心配はない・・・・・はずだ。
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