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「では、部屋にお戻りいただけますね? 決して、約束はお忘れなきよう・・・・・」
いつも以上に堅い声に、こくりと表情を引き締めて頷く。それを確認したファーファラが、「お部屋までお連れ致します」と後ろに立った。
「・・・・・あの、何故後ろに」
「逃げられる恐れがあるからです。・・・・・ご安心下さい、部屋までの道でしたら案内致しますので」
「はあ・・・・・」
それもそうか、逃げられてしまっては約束した意味がない。
なるほど、と一人納得してファーファラの前で歩く。自分の部屋までの道のりは覚えているので、道案内されるまでもなくスタスタと向かった。
無言で歩き続ける中、気になったことを聞く。
「そういえば、ファーファラさんの本業って何です? 冒険者とかですか?」
「・・・・・、まあそんなものですね。もう引退した身ですが───」
「へえぇ・・・・・」
どうにも歯切れの悪い答えが返ってくる。それを不思議に思いながらも、綺麗に磨かれた廊下を歩いた。
ファーファラの見た目は20歳くらい。・・・・・まだまだ引退する年齢ではない気がする。
何か訳ありなのだろうか。そう思い、チラリと後ろを向いて声をかける。
・・・・・が。
「ねえ、ファーファラさ───」
「お部屋は次の角を右ですよ」
「あ、うん」
───・・・・・見事に遮られてしまった。
これはつまり、聞くな、と暗に伝えているのだろう。何を聞いても、この件に関しては答えないつもりらしい。
「・・・・・じゃあ、私はこれで」
「決して部屋から出てはいけません、いいですね?」
「わかってますって」
はいはいと投げやりに返事をして、私は部屋のドアノブに手をかけた。
・・・・・最後にドアの隙間から見えたファーファラの後ろ姿は、少し寂しそうにも見えた。
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