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───バタン、と後ろで扉の閉まる音がする。コウが部屋に入ったようだ。
気配が遠ざかるのを感じ、ファーファラは一息ついた。
主である皇帝以外の者から姓ではなく名で呼ばれるのは、やはりまだ慣れないようだ。
『ディアン、ほら見て!! 綺麗な色じゃない?』
脳裏に甲高い声が響く。ひどく懐かしいその声を思い出し、ファーファラは潤み出す瞳を手で押さえた。
どうにも困ったことに、忘れることが出来ていないらしい。
「・・・・・本当は忘れるべきなのでしょうね」
ここに仕える以上、余計な記憶は必要ない。楽しかった記憶でさえも、後々邪魔になるかもしれないのだから。
だが一度思い出してしまった記憶は、意識とは関係なしにとめどなく溢れてきてしまう。
『お洋服を汚さないようにするには、こうすればいいんだよ? ね、手も汚れないでしょう?』
『よく出来ました!! ご褒美あげなきゃね、何がいい?』
『他のみんなとも仲良くしなきゃ・・・・・笑ってよ、ね? せっかく可愛い顔してるんだから』
最後に、黄緑色の瞳を細めて微笑んだ顔を思い出した。
『───・・・・・一緒に帰ろ? みんな待ってるよ、あの家で』
『───鳥籠で、ね?』
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