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虎穴に入らずんば虎子を得ず。残念なことに謎の人との接触は避けられないらしい。
───どうか目を覚まさないで。
まるで白雪姫を眠らせた魔女のような心境だ。できれば永遠に眠っていてほしいくらいである。
「・・・・・・・・」
・・・・・、もちろんそれは冗談。いやほんとに冗談だから。
まだ続く寝息を確認し、私はそろそろとベッドに近づく。
そして、さらりとしたシーツが肌に触れるまで寄ると、音を立てないように気をつけつつ膝で立った。
ベッドに手を置いた部分が沈み込む。それでも、辛うじて出たのは顔半分のみ。
───王子様のキスはできないが、見るだけなら十分である。
そういえば、こんなに間近で人の顔を見たことは無いな。・・・・・そんなことを思いながら、私はそっとその寝顔を凝視する。
見た瞬間───ドクンと心臓が跳ねた。神が気まぐれに作ったような・・・・・そう、言うならば。
───作り物みたいな美しさ、だ。
透き通る白さを持つ肌に、濡れ羽色の髪がよく映えている。閉じられた瞳を縁取る睫毛も長く、神秘的な雰囲気を醸し出していた。
人間離れした美貌に息を呑む。ここにも綺麗な顔立ちをした人物はいるが、コレは一人逸脱している。
───こんな綺麗に生まれたら、きっと人生イージーモードなんだろうなぁ。
周りの人にちやほやされる光景が目に浮かぶ。
無意識に長い間見つめてしまっていたようだ。もう離れようかと思った時、さらりと青年の黒髪が顔にかかったのが視界に入った。
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