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「・・・・・・・・」
それを見てふと思ってしまった───触ってみたい、と。
それは単なる好奇心。そして、寝ているのだから少し触っても気づきはしないだろうという油断、薄れた警戒心。
それらの事に気づいたのは、触ろうと手を伸ばした時だった。
「───つーかまえた」
「え゛」
楽しそうな澄んだ声が聞こえたかと思うと、パシッと軽い音をたて、伸ばした手は青年の手によって掴まれる。
黒髪に触れる前に虚しく宙で止まる私の手。
「・・・・・え?」
にこにこと柔らかな笑みを浮かべる青年の前で、再び戸惑いの声を発する。
いまいち状況が掴めず、私は目をぱちくりさせた。
ルビーのように鮮やかな紅い瞳の中に私が映り込む。ぎゅっと優しく手を掴んだまま、青年は口を開いた。
「ここでは初めまして、かな? 僕はイサ、よろしくね」
突然の自己紹介に思考が一旦ストップする。たっぷり間を開けて私は返した。
「・・・・・はい?」
わけがわからないよ。
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